パフォーマンスの良い営業組織は規律がある! ~ 受注に向けた営業活動の生産性・信頼性と営業の意欲を高めるために、営業組織の規律(5S)を徹底する方法

日本には素晴らしい製造業がたくさんあります。それらの多くの企業に共通することは、品質と信頼性の高い製品を生産性高く生み出していることです。そして、それらを実現するために5Sを徹底しています。5Sとは改善活動の一部のことで「規律」とも言えます。5Sは製造業には大切な規律で、業績不振におちいった製造業が5Sを徹底することで実際に企業再生を可能にした、という例も多く報告されています。

営業という活動も「商談を生み出し、それを確実に受注していく『商談というものづくりの工程』」と考えることができます。受注に向けた営業活動の生産性・信頼性・品質を高めるためにも5Sは有効です。業績(パフォーマンス)の良い営業組織は5Sという規律を徹底しています。「集めるべき営業情報」や「必要な行動」が明確で訓練されており、そのことから営業たちの意欲が高い状態を実現できています。その逆に、多くの業績が悪い営業組織は、5Sを徹底していません。そのため、すべきことがはっきりしておらず、場当たり的でコロコロ変わるために、仕事が属人化し、営業担当者たちの意欲も低い状態です。

今回は「商談を生み出し、それを確実に受注していく『商談というものづくりの工程』」の生産性・信頼性・品質を向上する、営業現場における規律(5S)を発揮するヒントについて解説します。

受注に向けた営業活動の生産性・信頼性と営業の意欲を高めるために、営業組織の規律(5S)を徹底する方法

ものづくりにおける5Sの定義とは?

「ものづくり」という生産管理の観点での5Sの定義は、一般的に下記のように説明されています。

整理(Seiri)】 必要なモノと不要なモノを明確に区分し、不要なモノを捨てること
整頓(Seiton)】 必要なモノの置き場所・置き方を決めること
清掃(Seisou)】 必要なモノをきれいにすること
清潔(Seiketsu)】 整理・整頓・清掃を繰り返し、必要なモノが汚れのない状態を維持すること
躾(Shitsuke)】 決めたことを必ず守ること

整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ)、それぞれのローマ字読みの頭文字が全て「S」のため、5Sと呼ばれています.

(【注意】インターネットで調べますと、5Sの定義や説明には幾つもの表現がありました。以上は、当社が日頃お伝えしている定義です。)

ものづくりにおける5S 「整理」と「整頓」

生産現場では、材料が入庫された後、道具や設備を使って調合・加工・組立をし、製品を生み出します。その一連の工程において、5Sの2つの要素「整理」と「整頓」は、主に生産性を高める要素です。「材料はどこにあるのか?」「加工する道具はどこにしまってあるのか?」をはっきり決めておかないと、それらを探す手間がかかります。「探す」という手間には、意外と多くの時間が使われており、生産性に悪影響を及ぼします。

ものづくりにおける5S 「清掃」と「清潔」

5Sの次の2つの要素「清掃」「清潔」は、主に信頼性・品質を高める要素です。作業環境・入荷した材料・工具や設備が汚れていると、生産する製品に汚れやゴミが付いてしまいます。すなわち、質の悪い製品を生産してしまうことになり、信頼性や品質に悪影響を及ぼします。そのために、「清掃」し、「清潔」な状態を維持することが重要です。

ものづくりにおける5S 「躾(しつけ)」

5Sの最後の1つ「躾(しつけ)」は、整理・整頓・清掃・清潔を継続する決意と努力で、生産性と品質の高さを持続する要素です。継続しないと生産性・信頼性・品質を高い状態を維持できません。「躾(しつけ)」は、5Sのうち「最も重要」と言われているものです。

営業で規律が浸透していない原因とは?

営業という活動が「商談を生み出し、それを確実に受注していく『商談というものづくりの工程』」であるならば、営業現場においても、5Sは営業活動の生産性・信頼性・品質を高めるために適用すべきものです。

しかし、工場などのものづくりの現場と比べますと、営業現場ではまだまだ5Sという規律の徹底度は低い状態です。その原因は、工場と営業では「仕事の行われ方」が違うためです。

工場と営業の違い1. 目で見えるか見えないか!

工場であれば、生産するものは「形あるもの」です。材料でも道具でも形があり、目に見えるものです。しかし、営業活動で扱われるものは原料でも道具でもなく、お客様との「商談情報」です。情報ですから形として目に見えるものではありません。そのため、整理・整頓は難しくなります。営業組織において5Sが徹底しづらい1つ目の原因は、「目で確認しづらい情報があつかわれているから」です。

工場と営業の違い2. 仕事はどこで行われるか!

2つ目の原因は、業務が行われる場所です。通常、工場は会社の敷地内にあります。社内ですので「5Sの各要素が実現できているか?」をいつでも多くの人が観察することができます。しかし、営業担当者が行う商談は、お客様先、すなわち、社外で行われます。そのため、「どのようなことが行われているのか?」を観察することが難しいのです。2つ目の原因は、「社外でおこなわれているから」です。

工場と営業の違い3. 画一したものではない!

3つ目の原因は、営業担当者が行う商談の進め方はお客様によって変わる、いうことです。工場であれば、同じ製品を製造するために、同じ材料・工具・設備を使い、同じ動作が求められます。ですが、営業担当者が行う商談は、お客様によって進め方も扱う情報も異なります。ですので、「何が良くて、何が悪いのか?」がはっきり分かりづらいのです。

重要な「営業情報」が具体的になっていない!

営業情報のうち、特に規律が徹底できていない代表的なものが「商談情報」です。以上の3つの原因により、多くの営業現場では商談情報における5Sが徹底できていません。そのために営業マネージャーと営業担当者との間で、下記のような会話ばかりが行われています。

◆ 買ってくれるのか、買ってくれないのか?
◆ いつ注文になるんだ?

繰り返しになりますが、「『商談を生み出し、それを確実に受注していく』という目的のために、どのような商談情報が取り扱われるべきか」が定義されていないことが、以上のような状態を生み出し、商談の生産性も信頼性も品質も低い状態となっています。

「商談を生み出し、それを確実に受注していく『商談というものづくりの工程』」における規律の定義とは?

営業担当者が扱うべき「商談情報」は、見えづらく観察しづらいものです。「商談を生み出し、それを受注していく『商談というものづくりの工程』」において、生産性・信頼性・品質を高めるためには、工場と同様に商談情報においてもその規律(5S)を徹底することが大切です。

「商談を生み出し、それを確実に受注していく『商談というものづくりの工程』」における商談情報の規律(5S)は、下記のように定義できます。

営業における整理】 商談に必要な情報は何かを決める
営業における整頓】 商談情報をすぐ確認でき、かつ、再利用できるようにする
営業における清掃】 受注するために必須となる情報の内容を定義する(最低限必要な情報を定義する)
営業における清潔】 確実に受注するために必須となる情報の質を高める
営業における躾】 上記の決めたことを必ず守る

営業組織において、商談情報の規律(5S)を高めるためには、まず商談の各工程において、必要な情報は何かを定義し、その情報を扱う方法を学びます。そして、お客様との商談において、その情報を収集するように営業担当者に徹底させます。「商談において、どのような情報を取り扱うべきか?」が定義されると、それぞれの商談の状況を正しく把握することができるようになります。状況を正しく把握できれば、「商談を先に進めるためにはどうすればよいか?」という計画的な営業を行うことができるようになります。

その結果、生産現場で5Sを行う理由の1つでもある「ムダな時間をなくす」、すなわち、営業担当者の「意味のない無駄な活動や作業」を減らすことができます。また、「商談において、どのような情報を取り扱うべきか?」を明確にすることは、営業担当者一人ひとりの能力を強化することもできます。その収集した商談情報を定期的に質的な観点で見直すことで、5Sの「清掃」「清潔」に相当するような、受注するために必要となる質の高い情報を扱えるようになります。このようなことを通して、商談の生産性・信頼性・品質を高めるのです。

一般的に、営業組織において、規律(5S)を持って扱うべき商談情報は以下です。

◆ 売上予定日と売上見込額
◆ お客様の課題や要望
◆ 面談の進捗状況
◆ ライバル会社に対する優位性

(確実に受注するために集めるべき商談情報につきましては、「決定版!営業組織のパフォーマンス(業績)改善の教科書 ~ 営業管理の状態から「組織と個を成長させる営業マネジメント」へ 」を参照ください。)

集めるべき情報を決めたら、それを文書にしてまとめ、営業担当者の誤解や勝手な解釈をなくすための対策が必要です。例えば、トレーニングやコーチングを実施したり、職務記述書の中に職務項目の1つとして定義することも効果的な方法です。

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営業情報の5Sを行い、営業の生産性と信頼性を高めよう!

あるクライアント企業で実際に起っていたことですが、その営業組織では「商談」と「案件」の定義がなく、営業マネージャーの使っている「商談」と「案件」の意味合いと営業担当者たちが考えていた意味合いが違っていました。営業担当者たちは「商談と案件は一緒の意味」と考えていましたが、営業マネージャーは「案件は具体的になっていないもの、商談は具体的になっているもの」と考えていました。

営業マネージャーは、「商談」については、具体的な商談情報を集めて営業管理システムに入力することを指示していました。ですが、営業たちは、「案件」についても、具体的な商談情報を集めて営業管理システムに入力しないといけないと考えていました。ですが、まだはっきりしていないことについてもお客様に繰り返し聞かなければならなくなるために、一部のお客様からは嫌がられてしまう状況でした。そのため、結局のところ、情報を取れないことが多く、その嫌な経験から、営業担当者は、案件も商談も、商談情報を集めようとしなくなっていました。

このような問題をなくし、営業組織の生産性・信頼性・品質を向上するために、私たちは「最低限、営業担当者が扱うべき必要な情報を決定する支援」「SFA(Sales Force Automation)やExcelなどの商談管理ツールで効果的に活用する支援」「営業担当者の職務記述書に職務を定義し、評価できるようにする支援」を行っています。

もともと営業組織は規律(5S)が徹底しづらいです。ですが、情報の体系を整えれば、難しいことではありません。営業組織の業績(パフォーマンス)の良い企業は、規律(5S)が徹底されており、そのために集めるべき営業情報が管理されています。そして、すべきことが明確なために営業担当者たちは高い意識で仕事をしています。あなたの会社で営業情報体系を構築する必要があれば、是非お問い合わせください。私たちが貴社と力を合わせて、その構築・定着の支援をいたします。

(本ノートは、2008年9月21日に書かれたものを再編集しました)
文:ティ・スクエア㈱ 寺尾 卓巳 (てらおたくみ, Takumi Terao)
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